小林 雅子 HP: http://kobamasa.jp
小林雅子がつくる作品を振り返る時、かつて彼女が身に付けたかもしれない衣服や身のまわりのモノたちが、油紙を素材に、琥珀色の皮膜となって光をまとう姿が思い起こされる。この皮膜は、記憶などが宿る意識の内側と、現実の世界とが接して互いをつなぐ境界にもなっている。既成の本をもとにした小林によるブック・オブジェの数々も、他の作品と同じく、心の内のものたちが現実の中でかたちを持つための役割を担っている。
素材となった本に記された物語やことばが見せるさまざまな世界は、読書を通して彼女の意識の中の記憶や思いと混ざり合い、そこには新しい物語やことばが生み出される。それらを自分だけの声として現実の世界に戻し、人々と対面させる試行錯誤の中で、ページを切り刻み、それぞれの本を象徴するかたちに造形化する制作が行われてきたように思われてならない。そして、そこに現れたものは、「本」という名のもう一つの皮膜の姿でもある。
篠原 誠司(足利市立美術館学芸員)