自分の作品を自分の言葉によって説明する事は、それ事態がある矛盾であると思っています。それは、私自身が、言葉によってリアルに伝えられないもどかしさを絵具にたくして絵画という方法で表現しているということだと思います。それでは絵画なら充分に伝わるかと言えば、これも又、充分とは言えません。しかし、言葉では表現しずらいことを表現するという意味において、自分には絵具が一番自由なのだと思います。
今の絵画のスタイルも、理論的に考えてできた訳ではなく、毎日の自由な絵具遊びの中から悩み、苦しみ、発見し、それを楽しむ。そんなくり返しと偶然の積みかさねの中から自然に生まれてきたものです。では私はいったい何を伝えたいのか?といいますと、それは、生命の根源である宇宙をも含めた自然と、その尊さ、広大さ、繊細さ、そして美しさであり、それらに出会った時の自身の感動だと思います。したがって、色彩の選択も考えながら使っている訳ではなく、自然の四季の中で、自分の心の中に蓄積しているささやかな感動をそまま色彩として呼吸するようにはき出しているものです。
私が今、暮らしている北海道という土地はとても美しい自然につつまれています。冬の真っ白い雪原に射し込む光。春のやわらかい光の中でいっせいに顔を出す草花達。夏のぬける様な空。色濃い緑の山々。秋の燃えるような紅葉と澄んだ空に広がる夕陽。そして又、真っ白な雪の世界へと戻ってゆきます。そんなくり返しの時間の中での私自身の心の反応の蓄積が、私の絵画なのだと思います。
自然はとても広大で、美しく繊細で、時としてとても厳しく、そして淡々と生と死をくり返します。人間の肉体は自然そのものです。その事を自身の心で受け入れながら、ゆっくりと生きてゆきたいと思っています。 (1995年9月13日 井上まさじ 記)
※上記の文は、1996年ポーランド・ワルシャワで開催された個展に際し記された井上さんのメッセージです。翻訳されることを前提になるべく訳し易い言葉を選んで表現されている、とのことです。
【井上まさじ 略歴】
1955年 愛知県豊川市生まれ
1986年 - 1989年 個展 LABORATORY/札幌
1990から現在まで毎年
個展 ギャラリーミヤシタ 新作発表
1996年
個展 GALERIA KUCHINA SBWA/ポーランド・ワルシャワ
「北海道・今日の美術 語る身体・10人のアプローチ」
北海道近代美術館/札幌
1998年
「知覚される身体性」 芸術の森美術館/札幌
2006年
個展「画層の堆積」 マキイマサルファインアーツ/東京
2008年 個展 ギャラリーエクリュの森+土日画廊(静岡・三島 東京・中野)
2009年〜2012年 個展 土日画廊
2014年 新収蔵品展 (北海道立近代美術館/札幌)
2014年〜2015年 個展 土日画廊
パブリックコレクション
・手稲稲穂整形外科病院/札幌
・NTTユーネットビル/札幌
・苫小牧市立病院/苫小牧
・北海道立近代美術館/札幌
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Supported by: GALLERY MIYASHITA / 土日画廊